ローマ

テヴェレ川の川岸の貧しい小屋に、羊飼いのファウストロとローレンツィアという年老いた夫婦が住んでいた。

あ る晩のこと、疲れたファウストロは小屋の戸にもたれかかって座り、ローレンツィアは夕食の支度をしていた。すると森の中からガサガサと音がし、川岸に向 かって一つの黒い影が滑り落ちていった。ファウストロは何が起こったのか気になり、妻にちょっと待っててくれと言って恐る恐る川岸のほうに向かった。

降り続いていた雨のせいで川は氾濫し、あちこちに大きな水たまりができていた。ファウストロは、一本の木の根元にある水たまりに大きな狼が横たわって、二匹の子供にミルクをあげているのを見つけた。

夢に違いない・・・そう思いながらファウストロはゆっくりと小屋に戻り、さっき見た双子にお乳をあげている狼のことを妻に話した。そして妻の腕をとり川に向かって連れ出した。

すると、二人の捨て子がファウストロとローレンツィアの小屋の影で休んでいた・・・。

二人の捨て子はファウストロ夫婦のもとであっという間に成長し、少し粗野だが強い好青年に育った。ファウストロは二人をロモロとレモと名づけた。二人はファウストロを父親のように慕い、毎日毎日できるだけ小屋から遠い場所へと彼を連れ出し、新しい冒険をさせていた・・・。

そしてここからがローマ誕生のお話として語り継がれる伝説・・・・

若いレア シルヴィア(アルバロンガの王、ムミトーレの娘であり、後に王の座を侵害した残酷なアムリオのいとこ)という娘がいました。女神ヴェスタ、炎の守護神であった彼女は結婚することも子供を作ることも禁じられていました。

しかし彼女は神マルテと恋に落ち、双子の男の子を授かったのでした。

それを知ったアムリオは、シルヴィアを穴倉へ閉じ込め、使用人にこの双子を殺すように命じたのです。しかしこの使用人は、二人の幼い子供たちを哀れに思い、殺すことはせず、テヴェレ川の川岸に置き去りました。

神マルテは、二人の子供を守り続けていました。

それを証拠に、捨てられた二人の子供は一匹の狼に助けられたのです。狼は双子を自分のお乳で育てていました。

そこでこの双子は羊飼いファウストロに拾われたのでした。

成 長したロモロとレモはある時自分達の生い立ちを知り、アルバロンガに戻り残酷なアムリオを倒し祖父のムミトーレおじいさんを自由の身にしました。二人は、 おじいさんの許しを得て、彼らの育ったテヴェレ川の川岸に新しい町を作るためにアルバロンガを後にしました。しかし二人はどの場所に町を造るかについて意 見が違っていました。ロモロはテヴェレ川(パラティーノ)、レモはアヴェンティーノ丘に造るつもりでいたのです。

この二人のうち、いったいどちらがその町に名前をつけたのでしょうか。

二 人は空を飛んでいる鳥たちを観察して、より多くの鳥を見た方がその町の名前を付けることができると決めました。女神はロモロに微笑みました。レモは9羽、 ロモロは12羽。ロモロはすぐに鋤を手に取り、パラティーノ丘の上に線を引きました・・・彼が“ローマ”と名づけた町の境界線でした。

それは、イエスキリスト誕生の753年前の4月21日でした。

しかし、この新しい町の誕生は同時にレモの生涯の最後でもありました。

ローマへは、誰であれ、どんな理由であれ、ロモロの許可なしにその境界線を超えることは許されないと定められました。しかしレモは、羨ましかったのか、それとも悪ふざけなのか、ひょいと境界線を飛び越えて笑いながら叫びました。「見て!こんなに簡単だよ!」。

ロモロは怒りに震え「誰であっても、ローマの名を汚した者は死ななければならない」と大声で叫びながらレモに飛びかかり、剣を振りかざして彼を殺しました。

一人になったロモロは立派に町を統治しました。そしてある嵐の日に、彼は姿を消しました。神マルテによって天に召されたのでした。